Column

加藤大治郎の死を無駄にした鈴鹿サーキット
 

 1コーナー奥のグラベル上で、無惨にも炎を上げるヨシムラのマシンを暗澹たる気持ちで眺めながら確信した。結局、鈴鹿サーキットは加藤大治郎の事故から何の教訓も得なかったのだ。

画像1・2:ストレートエンド
© Sports-i ESPN 車輪倶楽部
画像3: 2コーナー付近
© J SKY Sports
 
 2003年の鈴鹿8耐。スタート直後、OVERのマシンがオイルを噴きながら2コーナーを通過していく様子がテレビに映し出された瞬間、4月の日本グランプリでコース上に投げ出された加藤大治郎を見たときと同じような、とてつもなく嫌な予感がした。放送席にゲストとして来ていたノリックは、吐き出しているオイルの多さから危険を訴えていた。そしてそれに続く悪夢は、起こるべくして起こった。

 あれから一日経って、どこかのメディアが問題を指摘しているかと期待したが、どの記事も「波乱のレースでホンダが7連覇」とか「大治郎に捧げる勝利」などと通り一辺倒の安い感動を伝えるだけで、2周目に起きた事件がいかに重大か全く伝えていない。選手の意志に反してレッカーに乗せたのも、その挙げ句にコース復帰を認めず失格にしたのも、確かに大きな問題だ。しかし、問題の本質はもっと深刻である。

 過去の例から考えても、鈴鹿の1コーナーにオイルが撒かれた時にどのような事態となるか、実際に走ったことのない私でも容易に想像が出来る。しかも耐久のように多くのマシンが一斉にスタートした直後で、走行中のライダー達が誰も確認し得ない最後尾のマシンから大量のオイルが洩れたとあれば、鈴鹿が採るべき措置はただひとつ、即刻赤旗を提示してレースを中断し、しっかりオイルを処理してから再スタートをするしか有り得ないはずだった。

 しかし、鈴鹿の競技役員はその判断が出来なかった。ライダーの命とイベントの進行を天秤にかけ、信じ難いことに進行を採ったのだ。これは決して結果論ではない。おそらくテレビで中継を観ていた多くの人は、オイルを撒き散らしているマシンを見て「これはヤバイ」と感じたはずだ。前述のノリックも八代さんも危惧していた。そして、それが杞憂でなかったことは、事故を目撃した人なら誰でも理解していただけるはず。もしあの映像を見て危険を予感できないようなら、そんな鈍感な人間は重要なポストに就くべきではない。

 残念だが、死亡に至るような事故はどんなにコースの安全性を向上させても、その想定外の要因で起こってしまうものだ。だからといって安全性を疎かにしてもいい訳ではないが、必ずしもコースの危険箇所でばかり事故が起きていない現実を考えると、コースそれ自体はもとより、運営面で重大な事故を回避できる場合も少なくないはず。まさに今回などはそのケースで、赤旗を出したところで誰からも文句が出るはずないのに、どのような皮算用からか、確実に未然に防げたであろう事故を防がなかった。防げなかったのではなく、意図的に防がなかったのである。

 幸運にも転倒したライダー達に大きな怪我が無くて済んだが、もし誰かが宙を舞ったマシンと接触していたらと思うと、本当に誰が死んでいてもおかしくなかった。もしそうなっていたら、一体誰がその責任を取るのだ。だからこれは事故ではなく、事件なのである。各レース誌に於いては、この点を真剣に取り上げていただきたい。そして願わくば、このような判断を下した者を二度と二輪レースに関われないようにしていただきたい。もし私がライダーなら、この人物が仕切るレースには絶対に出場しない。

 加藤大治郎の事故死によって、GPライダーから鈴鹿での開催をボイコットする旨の発言が相次いだが、事故とコースの安全性との因果関係がハッキリしていなかったので、個人的にはヒステリックな反応だと多少忌々しく思いながら聞いていた。が、今回の鈴鹿サーキットのレース運営を見る限り、それもやむを得ないとの立場を取ることに決めました。

映像検証 (8/18追記)
© J SKY Sports

  この写真だけでは分かりにくいかもしれませんが、4番手走行中に転倒しグラベル上を横転する岡田選手に、7番手だったヨシムラのマシンが猛烈な勢いで接近。激突する直前に宙へ舞い、回転しながら岡田選手を飛び越して地面に落下しています。これらは僅か2秒弱の間に起きたことで、岡田選手の位置が少しでもズレていたら、マシンに衝突されるか押し潰されるかしていてもおかしくありませんでした。
 以上はテレビ中継の映像からでのみ識別できた危険であって、舞い上がる砂煙の中で起きていた危険は知る由もありません。もし真に危険だったのが岡田選手のケースだけであっても、奇跡的に惨事が避けられたことを肝に銘じなければなりません。私の批判を「結果論に過ぎない」と批判する人もいるでしょうが、それならそれで結構です。私は現場責任者に結果責任を問います。それだけ重要な判断を下す立場にいる人ならば、当然問われて然るべきだと考えます。

 

加藤大治郎の力

 ダメな運営とレースそれ自体とは別なので、優勝した桜井ホンダチームには心からおめでとうと言いたいです。スズキ好きとしては最初から最後まで辛い展開でしたが、これもまたレース…。

 優勝した鎌田選手は「大治郎が力を貸してくれたから勝てた」とコメントしていましたが、私はそれは絶対に違うと思います。あの状況でトラブル無く優勝できたのは、鎌田選手・生見選手が己の実力によってのみ運を勝ち取ったからであって、たとえ加藤選手が鎌田選手の精神的支えになっていたとしても、力を貸してくれたなんてことは絶対に無いと思います。なぜなら、じゃあホンダを勝たせるために加藤選手がケンツのマシンを止めてしまうようなことをするか?と。彼がそんなことするはず無いですよね。

 もし加藤選手が今回の8耐で力を貸してくれたことがあったならば、それは間違いなく2周目の1コーナーでしょう。あの状況で転倒したライダー達に大きな怪我がなかったこと。私にはこれこそが彼の力だと思わずにはいられません。だから鎌田選手には誰に遠慮することも謙遜することもなく、実力で勝ったのだと思って欲しい。事実そうだしね。

PPVテレビ中継

 スカパー!での生中継は、残念ながら30点程度の出来でした。一部「やる気あるのか?」というゲストもいましたが、解説の八代さんは色々と気を遣いながらも本音に近いことを話してくれましたし、小笠原アナはレース知識もあるうえ蔓延している古館病にも感染しておらず、実況チームは予想以上に良かったです。しかし、いかんせん中継技術が低すぎました。各チームの順位や相対位置を表示してくれないので、レース展開がまるで分からない。暫定順位もまったく出されず、ピットからの中継もなく、表彰台の音声は拾わず、今まで見てきたレース中継の中でも最低レベルの出来でしたね。これはこのままだと改善される可能性少なそうだなぁ。関係者は放送を見てないのか?
 


 なにせレース誌の購読を止めてしばらく経つので、話題になっていたのかどうかも知らないのだけど、八代さんが8耐で使えるタイヤが10セットになったことの弊害などを例に、主催者と参加者の意識が乖離していることを話してくれました。昔からズレがあるって話はよく聞いていましたが、もうそろそろこういう不毛なことは終わりにできないものですかね。今こそ選手会やARTが本来の機能を発揮すべき時なのではないでしょうか。



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